日時:2024年8月20日(火)10:30~15:30
会場:イニアビ農園
今回の訪問先は、安芸高田市向原町のイニアビ農園。5年前、田中・福岡ご夫妻が古民家と土地を購入、70種以上の品目を自然栽培で育てています。農産物の販売をはじめ、農業体験の受け入れや世界とつながる農園プログラムの提供、ファームステイも行っています。農園のコンセプトは“土から食べられる喜びをみんなで”、一日の授業を通して考えていきます。
「今まで食べた中で、一番記憶に残っているものは何ですか?」
福岡先生の問いに、食べ物と大事な記憶になった理由を書き込みました。
「自分で初めて作ったものも、記念日のメニューも、体の栄養になるだけでなく、みんなの想い出にもつながっています」
福岡先生のパートナー、田中先生の記憶に残っているのは、鮮やかな色のゼリー。20歳のとき、腸の手術後10日ぶりに口にした食べ物でした。空腹の苦しさを体験したことで、世界の飢餓に興味をもち、そんな人を少しでも減らしたいと農業を志したそうです。
福岡先生は、アボカド。南太平洋にあるフランス領ポリネシアのタヒチ島に滞在しているとき、庭の木からもぎ取り、パンに挟んでバターを塗って食べていたそうです。
印象に残っているのが、滞在先のおじさんの一言でした。
「これが、人生の豊かさっていうものだよ」
おじさんはアボカドを近所の人たちに配り、その代わりにいろんなものが集まり、助け合って生活していました。日本の暮らしでは欲しいものがあればお金で解決しますが、ここではお金がなくても生きていけます。
「自分で食べ物を作って分け与えることができれば、とても豊かな世界が待っているかもしれない。それが農家になったきっかけです。みんなのフードメモリーも、人生を変えるかもしれないね」
「この農園では自然栽培という方法で作物を育てています。農薬も肥料も使っていません。なぜ使わなくても大丈夫なのか、畑の中にヒントがあります」
田中先生に連れられ、畑の見学がスタートしました。肥料の代わりに、野菜の成長を助ける微生物の力を借ります。1gの土の中には、10億以上の微生物が活動しています。米ぬかや落ち葉を混ぜて発酵させた土の周りに塾生が集まりました。白くなっている部分をルーペで観察すると、菌糸が見えます。それが根にからんで栄養を運ぶそうです。手を突っ込むと少し温かくなっています。微生物が分解したときに発する熱の活用方法も教わりました。
畑には枝豆や珍しいアメリカのししとうがありました。
「みんな雑草に注目してください。理由があって、刈り取っていません」
畝の上にのせてあったり、周りにもたくさん生えています。先生から雑草の4つの役割を教わりました。
①土に還って栄養になる
微生物が有機物を分解して栄養に変えて土に還します。
②土の状態を教えてくれる
先が細い葉っぱが生える酸性の土、丸っぽい葉っぱはアルカリ性の土。土の状態に適した作物を植えれば、肥料を与えなくても素直に育ちます。
③水を保ってくれる
雑草が生えている場所は乾きにくく、土を守ります。刈ってしまうと乾燥して砂漠のようになってしまいます。
④生き物のすみかになる
ししとうに寄り付いていたカメムシは作物を荒らす害虫です。天敵は、クモやカマキリ、一番食べてくれるのがカエル。この夏は雨が少ないせいで、カエルの数が少なくカメムシが増えたそうです。
害虫が発生しても、それを食べる生き物がいれば、農薬は必要ありません。害虫がいないと味方が来ない。イニアビ農園は、どちらも生息できる環境を整えているのです。
「雑草は邪魔ものじゃなくて、いいやつなんです」
人間が外から何かを加えていくのではなく、生態系の循環をサポートする自然栽培。微生物や虫などの生き物や雑草がそれぞれ役割をもち、力を十分発揮できるように促す農業を学びました。
昼食は鹿の肋骨のお肉を使ったカレーです。ジビエの加工品開発に取り組む、地域おこし協力隊の中村シェフご自慢のメニューです。塾生たちは、ジャガイモやナス、小松菜、トマト、きくらげから好きなものをトッピングしました。美味しい笑顔にあふれ、あっという間に完食。何杯もおかわりをする塾生もいました。
この地域でも野生動物の獣害に悩まされています。そのためにただ殺して処分するのではなく、生き物への命に対するリスペクトの気持ちで調理し、いただく、とても大切なことを考える時間になりました。
『世界の農業をのぞいてみよう!』の授業では、この農園が自然栽培を取り入れた手がかりを探ります。塾生に数枚の写真が渡され、グループごとに「プロサバンナ事業」について考えました。事前情報がないまま、それぞれの解釈で発表。福岡先生が答え合わせのため、ストーリーを話しました。
アフリカ大陸の国、モザンビークに日本が技術とお金を提供し、大規模な農園を整備する代わりに、トマト、大豆、小麦などの採れた大量の作物を日本に輸入し、食料を確保するという流れでした。
塾生はプロジェクトについての感想を話し合いました。
「モザンビークの農業が発展した」
「お互いの国の困っていることを補えた」
ここまで、日本の視点でプロジェクトを見てきました。一方のモザンビークの人たちがどう思っているのかを知るため、今度は写真付きの英文の記事を見て、何を伝えているのか考えました。
“この国には、プロサバンナ事業は必要ない!”、“私たちの土地は、売り物じゃない!”の強烈なメッセージ。世界で貧困・飢餓の多い国に数えられるモザンビークの国民の80%は食べる物がなく、5歳以下の子どもたちの約半数は発育不良で亡くなっている現実でした。
栄養失調の子どもの姿、農薬や肥料を使い続けた結果、モザンビークの土地も痩せてしまい、使えなくなった土地だけが残されていました。
塾生はみんな驚いた表情で口にしました。
「イメージがぜんぜん違っていて悲しい…」
「Win-Winの関係じゃない…」
先生は、作物や労働力、人の権利などを奪う“土地収奪”について話しました。
「片方に負担がかかっているよね。モザンビークのようなことが、世界各地で起きています。みんなが食べているものを考えてください。土地収奪が起こっていないと言い切れるかな?例えば、ケチャップ。先生も食べています。トマトの土地収奪と無関係だとは思えません…」
人も土地も傷つけない畑を作ったらどうなるんだろうと思い、自然栽培を始めたそうです。
「事業を起こすときに、見えないものが見えてきて、何かおかしいなと疑問に感じたら、別の方法を取り入れてください」
世界の農業から学んだ先生が、いつも大切にしていることを伝えました。
『ご近所の農家さんに会ってみよう!』ということで、スペシャルゲストの登場!
1人目は「旬彩畑くらら」の倉田先生です。農園と加工所をやっているので、塾生の商品開発の参考になればと実際に作っている商品を紹介していただきました。
「みそピーナッツ」は、先生の畑で育てた自然栽培の大豆を使った味噌に、きび砂糖と蜂蜜をブレンド、ピーナッツを入れて炒めた食べ物です。無農薬で安心して飲める「はぶ草茶」、季節を感じる「ジャムの詰め合わせ」など写真を交えての解説が続きました。
「自分の暮らしに彩りを添えたいという気持ちで農業に取り組んでいます」
そう言いながら、一生懸命に話す倉田先生の笑顔が素敵でした。
次のご近所さんは、落花生の生産から加工、商品の販売を行う「ERMERA」のレオ先生です。
東南アジアにある東ティモールのエルメラ出身で、2012年から日本で働いています。
自然を守るために元気な畑を追求し、無農薬でピーナッツを育てて、「みそピーナッツ」の原料も提供しています。また、生産者の顔が見える食べ物を届けたいという思いで、自家製の「炒りピーナッツ」を商品化して自ら販売しています。
「人間が元気なときに薬が必要ないのと同じで、畑が元気であれば肥料はいりません」
“畑にはもともと力があるのに、人間が壊している”と、農業への疑問を投げかけました。
祖国の独立戦争を経験し、乗り越えてきた先生がつぶやいた一言、“日本は平和ですね”に込められたのは、農家としての素直な喜びでした。
「美味しいと言ってくれるお客さんが支えてくれて、楽しくピーナッツを作れること、それがうれしいんです」
イニアビ農園のコンセプト、“土から食べられる喜びをみんなで”。そのメッセージの意味を、ご近所のみなさんからもいただいた一日でした。