日時:2022年7月17日(日)10:00~16:00
会場:世羅町 せらにしタウンセンター(つばきホール)
今日は現場訪問授業ということで、子どもたちは朝8時に広島駅北口に集合。先生とともに「起農みらい塾」のバスに乗り込み、広島県東部の世羅町に向かいました。
車内ではクイズ大会もあり楽しく過ごし、9時半頃に学びの場となる「せらにしタウンセンター」に到着しました。
教室は世羅町の立派な大ホール、JA全農ひろしまの協力を得て、地元の生産者を特別講師として招く現場訪問の授業スタイルが実現しました。
大野先生から「農業の問題はなんだろう?」と問いがあり、子どもたちは高齢化や後継者不足、耕作放棄地、鳥獣被害など次々と発言。それに加えて先生は、日本の食料自給率の低さや米の消費金額の減少など食と農を取り巻く状況を説明しました。
次に農業の課題と解決に向けて取り組む、生産者の声を聞く貴重な授業です。特別講師の一人目は広島たまご株式会社 代表取締役社長 松本 義治氏です。残念ながら養鶏場の見学はできないとのこと。鳥インフルエンザが1羽でも確認されると、飼育している100万羽のニワトリすべて殺処分の対象となってしまうからです。子どもたちは悲しい現実と衛生面での管理の厳しさに気づかされました。
クイズ形式での学びが始まり、「1羽のニワトリが1年間で産む卵の数は約300個であること」、「広島県では県民の3倍にあたる約850万羽のニワトリが飼育されていること」、「全国で広島県は岡山県と卵の生産量で3位争いをしていること」などを知りました。
養鶏農家が農業で生計をたてるための対策として、特徴的な卵作りが欠かせないそうです。ニワトリの餌の中に10%米粉を混ぜた「広島こめたまご」もその一つ。卵はビタミンC以外すべての栄養素を含んでいるので、ビタミンC入りの付加価値で1個200円でも売れると、卵の可能性についても語っていました。
各グループに5種類の卵が配られ、観察タイムがスタート。殻が白い卵、ピンクや赤、青緑色で小ぶりな卵、ひときわ大きな卵は黄身2個入りです。殻の色の違いはニワトリの品種固有の色で、黄身の色はニワトリに与える餌で変わるということです。見た目をチェックしたあと、割って中身の違いも確認しました。
「卵の形はどうして楕円なの?」「ひよこが産まれる卵と普通に食べる卵は違うの?」と子どもたちの素朴な疑問が飛び交っていました。広島たまごの松本先生から卵の保存方法の話があり、尖った方を下向きにすると、丸い方にある空気の部屋に卵黄が触れないので傷みにくいとのことです。「卵の中には世羅の空気も入っている」と表現されていました。
続いて「卵は儲かるの?」がテーマです。JA全農ひろしまから卵の通常の販売価格や特売になりやすいことについて話がありました。利益を出すには1パック250円以上で販売しないと厳しいことを知りました。ニワトリの餌は9割以上が輸入に頼り、不安定な世界情勢で原材料の高騰が影響しているようです。生産量は広島県内の卵の消費量を賄って余るほどで他は関西エリアにも販売、県内ではJA以外の養鶏業者や商社などがライバルになるとビジネスの観点で説明を受けました。
「卵の種類はどのくらいあるの?」と子どもから質問があり、見た目と中身の栄養、産地の違いを合わせるとJA全農ひろしまで扱っている卵で約150種類もあるそうです。
広島たまごの松本先生は「私たちが卵を作り続けるエネルギーは、みなさんが卵を好きになってくれること」。「将来の食の代表者、子どもたちに支持されない農産物は、生き残れない」と熱く語っていました。
ランチタイムは自分で握ったおむすびを食べました。ご飯はJA全農ひろしまの環境にやさしい資源循環型農法を取り入れた3-R商品、「循環米せらにしあきさかり」。ガスで炊いたご飯と薪で炊いたご飯が用意され食べ比べしたり、地元のアスパラガスやミニトマトなど新鮮な食材をいただき、あっという間に子どもたちのおいしい笑顔でいっぱいになりました。
お米の授業の特別講師は、農業法人連携組織 おぐにフィールド 代表 小迫 高氏です。一人の力では限界があるのでみんなで農業をやろうと、14年前に農地をまとめ一つの集落内で法人化した話に始まり、広島たまごさんからニワトリの糞を活用したたい肥でお米を作る、地域資源循環への取り組みを知りました。
農家の手伝いをしていた子どもの頃の思い出話を通じて地域で助け合う農業の素晴らしさ、おいしいお米がたくさん収穫できたときのお米農家の喜びなども話していました。
「お米農家の稼ぎ」の話では小さな田んぼをかかえて赤字の人が多く、お米を作って生活するなら15ha~20haの規模が必要で、収入は年間500万円~600万円(月換算40~50万円)になるということです。毎年かかる経費、種や肥料、農薬、燃料、機械の修理代などの説明もありました。
おぐにフィールドの小迫先生はお米農家の未来について、「若い人が農業を担うために機械化で辛い仕事を減らす環境を整えることが大事です。そして、食べる人も含めてみんなの力で農地を守っていきたい。今日のようにみなさんとのキャッチボールを望んでいます」と子どもたちへ伝えました。
スマート農業への取り組みを見学できる場が用意され、教室から歩いて約5分の圃場へ向かいました。まずは「草刈り機」で雑草を刈っていく作業です。次に「農業用ドローン」が上空に舞い、子どもたちの歓声が上がりました。農薬や肥料を空中から散布でき、手間と時間の短縮になります。離れた場所から簡単に操作できる「ラジコン操縦式の草刈り機」は、四輪駆動で急な傾斜地でも安全確実に作業できるということです。先端技術を活用した農業の説明を受ける中で、農業の未来にかける生産者皆さんの思いを垣間見た気がしました。
教室に戻り、今日習ったことを整理するグループワークに取り掛かりました。卵農家と米農家それぞれの強みや弱み、儲かるアイデアなどを出し合い、模造紙に書き込み発表しました。それにもう一つ、大事な作業があります。他のグループの発表を聞いてどう思ったかを付箋に書いて渡すことです。他の人の意見を聞き、自分の考えを伝える、それが成長につながるということです。
発表では、卵の強みは「生産量と種類の多さ」、弱みが「鳥インフルエンザ」と「輸入に依存している餌」の意見が多く、「くじ引きの当たりのように黄身2個入りの卵を入れる」などユニークなアイデアも飛び出しました。
米の強みは「スマート農業の活用」や「資源の再利用商品」、弱みが「パンを食べる人が多いこと」など。「米粉パンなど加工品の開発」や「ジビエの商品化」、「ネットでの消費者交流」、「給料を増やすためにクラウドファンディングや寄付を募る」などのアイデアが出ていました。中でも、強みの部分で「卵や米を愛する社長がいること」があげられ、今日の特別授業の先生たちの思いを子どもたちがしっかり受け止めていて感心しました。
子どもたちの発表を聞き、おぐにフィールドの小迫先生は「農業は儲かる仕組みをどう作っていくかが大事。“今できることを一生懸命やること”を心がけて私たちはがんばっています。いいアイデアがあれば教えてください」と締めくくりました。
最後に子どもたちは、今日1日先生を務めてくれた農家さんにお礼を言って授業を終えました。