日時:2022年8月21日(日)10:00~15:30
会場:〈加工場〉就労継続支援A型事業所ひまわりくらぶ江田島、江田島荘(レストラン Locavore)
今日は加工現場の訪問授業のため江田島へ。いつものように子どもたちは広島駅北口に集合して「起農みらい塾」のバスに乗り込みました。道中、車内でアニメ映画を観ていると時間はあっという間に経ち、いつのまにか窓の外には美しい海が広がっていました。現地までは、もう間もなくです。
加工場の就労継続支援A型事業所ひまわりくらぶ江田島に到着。ゴールズ株式会社の中野社長から施設についての説明を受けました。製造しているのはアイスクリームや冷凍加工品で食品工場の衛生管理の厳しさにもふれていました。
ここで、子どもたちにパンダの焼印入りの冷凍ライスバーガーが配られました。これは通常販売しているバンズとは違い、オレンジの色がついています。野菜ジュース100%で炊いたご飯を使っているからです。冷凍食品なので、葉もの野菜を具として挟めないからバンズに入れるというアイデアでした。まだ商品開発途中で、10月に子どもたちが販売体験をするときの商品になります。
中野社長は「販売にチャレンジして、評判になって売れる、逆に売れない場合もあるかもしれない。どうしたら売れるのか、そこを考えることが大事だよ」と販売についてのポイントを話されました。
子どもたちはAとBの2班に分かれて「ライスバーガー作り」と「お米アイスのシール貼り」を交代で体験します。ライスバーガー作りの班は、エプロンや帽子、手洗い後に手袋を着用。専用の靴に履き替え、衛生面は万全です。調理場に入りスタッフから教わりながら、手順に沿って作業していきます。クッキングシートの上でバンズ用の丸い型にライスを入れ、手で平らにのばす作業から始まりました。次に食材を潰すマッシャーを使って、表面のお米が潰れるくらい押さえます。これはひっくり返したときに崩れないようにするためです。型から外したらパンダの焼印入れ。そのあと、2つ目のバンズ用ライスを型にはめて押し固めて、その上に薄く自家製ソースを塗りました。いっぱいつけると辛くなるので加減が大切です。お肉をのせて焼印入りのバンズで挟み、型を慎重に外して完成。出来上がったライスバーガーは子どもたちの今日のお昼ごはん、みんな楽しみにしている様子でした。
お米アイスのシール貼りは完成形の容器を見ながら、スタッフに習って進めていきました。最初はフタからです。中央部分に周り3mm程度の余白を残して均等に貼ります。ゆっくりと空気が入らないように、子どもたちは手際よく貼っていきました。店舗で販売する商品の容器になるということを知らされ、より気合が入ったようでした。お米アイスは、濃いミルク、きなこミルク、いちごミルクの3種類。種類を区別するシールをフタの左側の余白に貼っていきます。最後は一番の難関、カップ側面のシール貼りです。カップの継ぎ目に合わせ、下にズレないように空気を抜きながら、ゆっくり引っ張るように巻いていきます。苦労していましたが、失敗しても何回か貼り直して完成。コツをつかんだ子どもはどんどん貼り続けて、積み上げていきました。
これで加工場での体験は無事終了。子どもたちは次の教室「江田島荘」までバスで移動しました。
江田島荘では、海の見える開放的なレストランルームで授業を行いました。子どもたちはグループに分かれて着席。中野社長はビジネスの先生として、小学生の頃まで遡って話されました。
中学受験での失敗、公立中学入学後にバスケットボール部に入部。受験で悔しい思いをしたことから、負けず嫌いが強くなったことと熱中する性格が相まって、高校時代は全国でも認められるバスケットボール選手になったこと。そのおかげで有名な大学からの推薦や学校のOBをはじめ各方面から声をかけられるのですが、すべて断ったそうです。特定の業界の就職に有利な大学に進学して、決められたラインに乗るのがイヤだったと…中野先生は一大決心。スポーツの力に頼らず、自身の学力で行ける大学をめざした、その時期が起業の原点ということです。そのとき、自分が選択した道が間違いではなかったと話せるように、みんなに認められることをしようと心に誓ったそうです。
就職先は商売を学べる、広島市内の某有名百貨店に入社。勤務しているときに在庫をもつリスクを身をもって知り、起業するときはモノを売らない、在庫をもたない商売を始めると考えていたと話されました。
そして、介護保険が始まった年、介護サービスの事業所を立ち上げて起業。「制度が変わるとき、世の中が変わる潮目がチャンスです!」とビジネスでのタイミングの大切さを子どもたちに熱く語りました。当時、社会的に女性ヘルパーが正社員として働く場があまりなく、中野先生は優秀なヘルパーを雇うため、社会保険加入の正社員として雇い、シングルマザーの雇用にも力を注いだそうです。
次に、高齢者に対して働ける場所を提供したい思いから給食センターを展開。洗い場担当は高齢の方には重労働で、あるときハローワークから依頼があり、20歳の障がいをもつ若い男性を雇い、任せると動きも早く正確。そこから障がい者の方を次々と雇用していくのですが、今の企業形態の原形がすでに出来上がっていたと感じました。
中野先生は「会社の強みは、スピード感です!そのカギはスタッフの力を最大限引き出すことです」と適材適所の大切さを伝えました。障がいのあるスタッフは、シール貼りを黙々とこなし、1日300~400個完成させるということです。印刷の容器になると最低ロットが10万個なので、商品の数量が少なくてもマンパワーで対応できるとのこと。中野先生の話を真剣な眼差しで聞きながらメモをとる子どもたち、具体的な話に起業やビジネスにより興味がわいている様子でした。
昼食後はJAバンク広島のイメージキャラクターを務める、タレントのさいねい龍二さんからの話です。今日は午前中から子どもたちといっしょに学んでいました。
俳優業やモデルをやっていた東京時代、2014年に広島に戻り農業をはじめた経緯など、子どもたちにわかりやすく話をされていました。農業をやりながら他の仕事もやる「半農半X(エックス)」今流行っている、働き方を意味する言葉です。さいねいさんは農業と芸能のスタイルなので「半農半芸」です。
子どもからの質問で「芸能人になったきっかけは?」と声があがりました。さいねいさんは東広島市で育ち、大学進学のため上京、街中でスカウトされたのがきっかけということ。映画のオーディションを受けても、最初は合格せず悔しい思いをしていたそうで、演技の勉強を日々がんばっていたことも交えての話でした。「俳優のどういう仕事に興味があったのですか?」との質問には、「ドラマや映画は、俳優さんの仕事の結果を見ているだけで、普段どんな準備をして仕事に挑んでいるのかは分からないよね。ぼくは撮影現場の雰囲気を含め、俳優さんのライフワークに憧れていたんだと気づきました」と丁寧に答えているのが印象的でした。「どんな小学生でしたか?」の質問には、ソフトボールチームに所属していたこと、某有名塾に通っていたことなどの話も。「ぼくは女の子にモテました」と付け加え、冗談めかして笑っていました。
中野先生の後半の授業が始まりました。子どもたちはビジネスの戦略4Pのワークシートにメモしていきます。呉の焼山で「せとうちハム」を作り始めた経緯、広島県産の材料で手作りを強みにした商品の魅力、百貨店に売り込みギフト商品として売れ行きがよかったことなど具体的な内容で、子どもたちも理解しやすかったようです。JAさんとの出会いで「米ゲル」を使った商品開発の依頼があり、ライスバーガーを例に、OEM商品の流れやメリットも学びました。OEMの受託で現場の技術力が高まり、他の商品に展開でき、ビジネスの幅が広がったとのことです。
中野先生からは、ビジネス成功のヒントになりそうな話が次々と飛び出してきました。
「何か作れないかと言われたら、まずは形にする、早く提案することが大事」、「一つひとつの仕事を誠実にやっていると、他にも話が舞い込んでくる」、「一手間かけて少しだけいいモノ。あまり背伸びはせずしっかりと手をかける、それが商品づくりのモットー」などです。
ここで大野先生から子どもたちに、「販売の授業では、今日のライスバーガーを売るという目標があります。商品について、もっと知った方がいいよね」と提案がありました。
さっそく、中野先生への質問コーナースタートです。ライスバーガーの販売先と売上金額は?、お米の種類は?、バンズに使用しているジュースの中身は?、含まれるアレルゲンは?などの質問がありました。
さいねいさんからは「県産のジュースは使わないのですか?」と問われ、「手間や供給時期の問題もありますが、県産のジュースでもできないわけではありません。まず最初は、野菜ジュースを使ったバンズで売れるのかを考えないといけない。お客さんからの反応を見て、商品を改良していけばいいと思っています」と中野先生はどこで売るのか、どの程度売れるのかで、作り方も変えていくとの方向性を示しました。
子どもたちは個人ワークでメモした内容を元にグループでまとめ、商品や売り方のアイデアを順番に発表しました。
新しいライスバーガーのネーミングをいっぱい盛り込んだグループ。広島弁を使った親しみやすいキャッチフレーズの提案、パンダの焼印以外にも違う動物も入れてバリエーションを増やすアイデア、星やハート、もみじなどバンズの形に着目したアイデア、栄養や食べやすさに配慮したお客さん目線の商品など、今日を含め、今までの授業が生かされた発表に子どもたちの成長が感じられました。
最後にさいねいさんと中野先生から今日の感想です。
さいねいさんからは「みんなが発表した4Pは、ビジネスに大切なマーケティングに踏み込んだ内容です。小学生からこれを知っている、考えたことは、大きな財産になります。今日学んだこと、これから学ぶことはみんなの自信にしてほしいです」
中野先生は「伝わっているか不安でしたが、みんなのプレゼンテーションを聞いて、私の話をしっかり聞いてくれているのがわかってうれしかったです。今日の授業はこれからとても役立つことです。価格もネーミングも自分たちで考えて販売することは楽しく、いい経験になります。みんなで力を合わせてがんばってください」
その後、みんなでお二人にお礼を伝え、記念写真を撮り笑顔で締めくくりました。